The Songs of Orpheus

HelloTaro2004-11-25


 涙はどこから来るのだろう?
 いつからか、泣き虫だった自分は、泣けなくなってしまった。泣くことはかなしい。しかし、泣けないことはもっとかなしい。涙がでる寸前、一瞬、なにかにすいこまれるように、鼻の付け根がキューッとなって、とりかえしのつかない喪失感と、次元の異なる闇をかいま見る、あの感覚は嫌いじゃない。そして信心皆無な自分にとって、もしかしたら涙は聖なるものに通じる、ただ一つの道かもしれない。泣いて泣いて、たくさん泣いて、大声で泣きながら、ゴボゴボゴボゴボと黄泉の川まで通じる大量の涙を流せば、きっと景色も気分も変わるだろう。しかし、今の自分は鈍感で、上手に泣く方法すら忘れてしまった。
 さっきバスの中で中沢新一氏の網野善彦氏への追悼本を読み終えた時、不意に鼻の付け根がキューッとなって視界がにじみぼやけた。しかし「とまります」ボタンを押し、下車している間に、その感覚をなくしてしまった。バスの中に置き忘れたのだろうか? とりあえず、明日から本棚のこやしになっていた網野善彦「無縁・公界・楽」を読むことにする。 

「僕の叔父さん 網野善彦中沢新一 ISBN:4087202690