Fight!!

　「仕事の悩みでいらいらしていたせいか、一昨日も近所の道ばたでケンカしちゃったんですよ。おかしいですか？」
　今月いっぱいで辞めてしまう同僚と給湯室で立ち話していたら、彼女の後釜に配属された後輩女子社員Nさんにこんな相談を持ちかけられた。
　最初は、ちょっと肩がぶつかって、相手がなんにも言わないから文句いったんですよ。「ワレコラどこ目をつけとんじゃ!!」とか。私、出身が山陰ですから関西言語圏なんで。そしたら信じられないことに相手も関西弁で反撃してきたんですよ。すごい剣幕で、それでめんどくさくなって無視したら、追いかけてきたんですよ。
　ちょっとちょっと、気をつけなよ。相手はどんな人？
　すっげーブスで同年代のオンナ。んで、横断歩道渡ったら、そのブスはトロくて渡れなくて、大きな通りを挟んでまだこっちに向かって叫んでいるんですよ。だから私もあったまきちゃって「うっせーんだよ。ブス」とか大声で叫んじゃって。
　って、、、周りの人、引いていなかった？
　いや、私もそのブスも、カレシが一緒だったから。
　えーっ。っと、じゃあ、最後は彼氏同士で殴り合って決着したのかな？
　いやいや。両方とも女のケンカを押さえていて「暴力してもお互いに損だよ」とか「冷静になろうよ」とかなだめる一方で、、、。
　わー。それって現代風？　一昔前だったら男がケンカして女がとめに入ったけど。
　いやいや、私、怒りマジキレでしたから。うふっ、こんなことしゃべったら性格バレちゃいますね。しゃべりすぎないようにしなきゃ。それでそれで、どっかでそのカップルの歩く方向が変わるかなって期待しながらずっとその大通りを挟んで平行に進みながら罵りあっていたんですよ。でも、どうも目的地の方角が一緒で、ずっと並んで歩いていってて、これはヤバイな、と。
　そうねぇ。住んでいる場所も近所だったりしてね。隣のアパートとか。
　うわー、マジすかねぇ。こわいわぁ。
　でもこんど出会った時に「先日はどうも」とか挨拶してお茶誘ったりすると、案外、ものすごい大親友になっちゃったりして。ケンカするほど仲が良いって、お互いに共通するモノを発見したり。
　えー、そうですかね。そういう時には、、、お茶を誘うのがいいんですか？
　いや、だから時と場合だよ。場の雰囲気とか。それで結局どうなったの？
　なんか20分ぐらいそうやって怒鳴っていたら、疲れちゃって、それに不思議にストレス発散して満足しちゃって、そのタイミングで双方の彼氏が、それぞれの彼女をなだめながらお互いに軽く会釈しあって、それで終わりました。なんか、これって、変ですよね。やっぱり仕事のストレスが問題ですか？
　いやいや。まあ、でもケガも無かったし、カラオケとかと違ってストレス発散できた上にタダだったし、結果的にはよかったんじゃない。
　そーですかね。それでよかったんですかね？　安心しました。どうもありがとうございまーす。
　うーん。20代大卒女性のストリート・ファイトですか？　このパターンは初めて聞いたなぁ。どうなんですかねぇ。誰かこの件についてはコメント頂けるとありがたいのですが。ちなみにNさんはルックスも普通の、どちらかといえばジミ可愛いお嬢さん。まあ、いいか。とりあえず面白かったし。
　画像は数年前に篆刻した牡鹿の印章。北沢方邦先生の力作「日本神話のコスモロジー」の「冬、雪として降る天の水は、夏、鹿の背に白斑として姿をとどめる・・・」というお話がオモロかったので石彫してみました。それではまた次回もご精読よろしくお願い申し上げます。ペタペタ。

「日本神話のコスモロジー」北沢方邦 ISBN:4582702090