1円も儲からず売る方法?

情報とは記号の集大成であり、その蓄積が文化である。そしてその純粋な意味において、昨日発売された「 1円も儲からずにTシャツを作る方法」(ラピュータ刊: ISBN:4947752564)は、1990年代後半から2005年現在までの、きわめて同時代的なニッポンの深層心理を文化的に体現した奇跡の書物である。
これは一見、マンガ家タナカカツキ氏のオリジナルイラストをプリントしたTシャツを、主にインターネットで販売してきたGbMというショップの代表者である胡口桂子さま(コグさま)自らが著者として記した、ブランドの7年間の軌道と歴史、商品説明を集めた書物に見える。が、しかし、ここに紹介されている「Tシャツ」というモノは、自ら「薄っぺらな記号=売りやすい・買いやすい商品」であることにとどまることができず、コグさまの手をつうじて東北の巫女やイタコよろしく森羅万象を語りはじめる。その事によって、商品として製作されたはずの「Tシャツ」たちが、見る人、着る人、触れる人の意識のスケール感覚を、時には激しくビュンビュンと、あるいは爆発のように、あるいは底なし沼の静けさのように、ブルブルと、まるで神話や象徴そのものに触れているような既視感をともなわせながら揺さぶりかけてくるという、不思議な体験が起きる、ひとつのトビ道具となっている。

GbM: http://kuromatsu.jp/gbm/