角川春樹サイン会

 半月ほど前になるが、新宿紀伊国屋書店本店の「角川春樹サイン会」に行った。
 春樹氏は、客の一人一人、一冊一冊、自分の名前と、「花」「月」「雲」などの文字を筆ペンで書いていた。約30分間並び、自分が頂いたのは「雲」。
 今朝、通勤中に雑誌を読んでいたら「俺はこのあいだ名古屋で染筆を頼まれて、小さい団扇に『雲』という文字を書いた。刑務所でいつも雲を見ていたからな。そしたら女が俺の字を見て濡れたんだ」 (en-taxi07号asin:4594603769)という記述を見つけ、会場でも上品なご婦人方が、春樹氏が筆ペンで繊細に無骨な文字をしたためる様子をうるんだ瞳で眺めていたことを思い出した。

 枯野より枯野へ橋を渡りけり
 山茶花やいつも見てゐていつも見ず
 満月やマクドナルドに入りゆく
 asin:4861730589

 十代の頃、荒俣宏氏の「帝都物語」の最後に、角川春樹氏が超人的に登場してびっくりした。故中上健次氏との対談集「俳句の時代」 asin:4041456088、春樹氏の句集を数冊、図書館で読んだ時も頭がクラクラした。同世代の偉大なアンチヒーローにして神話的存在、角川春樹の俳句は、生きながら逝きつつ彼岸の視点で物事を眺めるリムジンのようだ。