クッキング・メディテーション

 料理する時間が愛おしい。
 料理とは、食べる人数、年齢、嗜好、アレルギー、前日のメニューや体調、季節、予算、買い出し・下準備を含めたスケジュール作成、実際の調理作業、盛りつける食器の選択、供する順番、栄養バランス、道具の手入れなど、無数の要素を考慮して、その瞬間のベストを決定する作業の総称である。スーパーで上手に買い物するには、想像力と経験と、地に足がついた生活の知恵がいる。多くの主婦にとってこれは日常生活のプチ・ストレス要因かもしれないが、自分にとって主に休日のレジャーの一つであり、こころを整理するシンプルなメディテーションを兼ねている。お金と頭と体を使って作った料理を、自分や自分の家族、好きな人と食べる楽しさ。失敗した時、失敗したものを食べる無念と反省。単純でありふれた「男の料理」。

 ここ数年、レシピ本や料理実用書をよく読む。きっかけは友人に教わった福田里香さんの「4つの甘みでつくるお菓子」。「甘み」という味覚を、具体的な原材料と性質の違いから分類した上で、その特性を生かしたレシピを紹介。文章と構成の巧みさに、上質なハードボイルドに似た感動を覚えた。なんとなく尻切れトンボな印象なのは、自分がお菓子を全く作らないため。実用書として愛用する人は、至福のお菓子たちとの出会いがラストシーンに待っている(いいな)。「スチームフード」(長尾智子さんとの共著)は蒸かしたけどさ。「平松洋子の台所」も面白かった。

 今日、吉田健一氏の食に関するアンソロジー「旨いものはうまい」と柳瀬久美子さんの「お菓子な人生」を購入。後者はコンパクトで上品なデザイン、空気&間を捕らえた写真が素晴らしい。上質なレシピは、それ自体が美しい物語である。おすすめ。吉田健一氏は「私の食物誌」が最近COWBOOKS系古書宇宙で評価されているが、「吉田茂元首相の息子だからって、もうちょっと調べてから書けよ!!」というような、つっこみところが満載だった印象がある。雑誌でいえば店舗紹介しても基本データをレイアウトしないRelax文体(先月号からリニューアルしちゃったけど)のルーツ? でも独特のグルーヴと贅沢な経験が盛りだくさんで読むのが楽しみ。

「4つの甘みでつくるお菓子」asin:4579206258
「スチームフード」asin:4388059196
平松洋子の台所」asin:4893084399
「旨いものはうまい」asin:4758431388
「お菓子な人生」asin:4897375061