おもしろいことはなんておもしろくないんだろう

HelloTaro2004-11-28


 「ねえ、イチゴ畑にゾウを隠す方法を知っている?」
 インド・ベンガル人の貿易会社社長C氏とカタコト英語で雑談していると、彼は突然、隣の若い日本人女性スタッフにそう質問した。しばらく考えたのち、申し訳なさそうに「I don't know...」と彼女が答えると、C氏は真面目な顔で「まずゾウの足の爪を赤く塗ってイチゴのようにする。それからゾウの身体を見えない場所に押し込む」と解説。一瞬にして場は凍り付いた。しかし、自分はその時、エレファント・ジョークの実用例に初遭遇したことに感動し、こころの中に歓声が湧きあがるのを押さえることが出来なかった。
 エレファント・ジョークとは「問:ゾウを冷蔵庫にいれるために行う3つの方法は? 答:冷蔵庫のドアを開ける。ゾウを中に入れる。ドアを閉める」「問:あなたの冷蔵庫にゾウがいたかどうか、どうやって調べますか? 答:バターにゾウの足跡が付いているのを確かめる」といったようなゾウをテーマにしたナンセンス・ジョークの総称。一説によれは1960年代にアメリカの大学生の間で流行したことで広まり、現在はアメリカン・ジョーク極北の1ジャンルとして親しまれている、らしい。自分は中学生の頃にとある雑誌のコラムでその象的宇宙の存在を知って、家族やクラスメイトなど周囲の人に自作含むこのゾウ冗談を言い過ぎて、しばらく後悔した記憶がある。あらためてC氏にインドのジョーク事情など質問すると「C氏の会社の社長秘書は、毎朝、新しいジョークをひとつ社長に伝えることを重要な職務としている」ことや「商談の最初にジョークを言い交わすことは、とても大切なコミュニケーションの潤滑油となる」こと、またジョークが書かれた本は、そういったニーズに対応して、とてもよく売れていることなどを教えてくれた。日本にもジョーク・ブックはあるか? と聞かれ「コメディアンの書いたタレント本は人気があるが、いわゆるアメリカン・ジョークを一般に日本人は好まない。自分は少年時代に父親の雑誌『プレイボーイ』を隠れて読んでいた時、ずいぶん親しんだけどね」「本当の目的はプレイメイトのグラビアだったろう?」「もちろん、イチゴ畑に隠れているウサギさんが目当てだったよ。ははは(笑)」などと、いちおうジョーク風の会話でまとめてみたり、、、。
 んで、約20年ぶりにエレファント・ジョークについて考えてしまった。このジョークの特徴は、もちろん言葉遊びの要素もあるが、ロジカルな構造によって、日常を逸脱する回路をもつことだとおもう。冷蔵庫にモノを入れる動作を説明する時、その身振りを示す3つの方法、つまり「冷蔵庫のドアを開ける。モノを中に入れる。ドアを閉める」という回答は間違っていない。しかしゾウの大きさというものを考慮した時、その行為はナンセンスとなる。補足すれば、通常の認識では、冷蔵庫に入るものは、スーパーやお店で買った食料品という常識的な限定があり、ゾウを冷蔵庫に仕舞う事は想定外のことである上に「冷蔵庫に入れる」ですむことをあえて「冷蔵庫に物を入れるための3つの方法」としてわざわざ言語化した説明を求めること自体がコミカルというか、つまり、人をバカにしている。そのために、このジョークは失敗すると、上の事例のような冷めた空気、軽蔑視線ビームを受けるが、そのリスクもエレファント・ジョーク使い手の甘美な味わいの一つ、だろう。ちなみに「Elephant Jokes」でGoogleってみれば、ゴロゴロしています。
 しかし、これは言語の構造上の問題だと思うが、やっぱり日本語のコミュニケーションで使うには、エレファント・ジョークはロジカルすぎて実用的ではないんだよなぁ。なんて考えつつ、またデジオの話題。
 昨日の「コグのデジオ女学院」放送での「湯船に肩までつかった感想。うーん、あったまるわぁ」「窓の外がざぁざぁいっているのを見ての一言。雨かぁ」「電車に乗ってきた美しい女性を見てこころの中で一言。美人だな」という伊藤ガビンさんの投書と、それについての胡口桂子(コグ)さんの解説にはノックアウトされてしまいました。通常は言語化しない、されない普通の感想、思考をあえてコトバにすることの、まさに極北的なおもしろさが、なんというか大和ことばエレファント・ジョーク的世界確立の可能性についての方法論にも聞こえて、一瞬ときめめいたんですよ。はい。んで、昨晩、とあるバーでこの話をしたら全然受けなかった上、お店のママに「それ、も一回やったら私キレる」と精神的袋だたき&拒絶を受けました。これはたぶん自分自身の話術の問題です。修行が足りませんね。それにしてもコグさんの語り口は、不思議にすらすら耳に入ってきて、毎日クセになります。

「コグのデジオ女学院http://www.kogu.cn/
vol.179 http://gabin.digitiminimi.com/kogu/179.mp3