白桃

HelloTaro2005-09-24

猛毒の青酸カリは桃の匂いだという。桃には死の気配がする。
中国大陸から奈良時代に桃が渡ってきた時から、桃は魔よけの力があるとされていた。イザナギが死の世界、黄泉の国から逃げ帰った時に、桃の木の下に隠れ、その実を投げつけて追っ手の黄泉軍を退散させたという記述や、3月3日の桃の節句で、桃の花の呪力によって、女子の健康を念願する習慣など、桃の魔力にについての記述は沢山ある。青森県の下北地方では、イタコが霊の口寄せをする時に、桃の木を飾るため、普段は桃の木を死霊と結びつけて忌む例すらあるという。
宇宙を一つの木にみたてる習慣、いわゆる宇宙樹のモチーフとしても、桃は東洋を代表する樹木。漢の時代の桃都山の3000里あるという桃都樹伝説や、初期道教教典に記載されているという高さ390万億里(なんだそりゃ?)の高さの桃の木の伝説など、沢山の伝説がある。
孫悟空が食べ散らかした生命の果実も桃。また万葉集に詠われているように、古来、花と言えばサクラでは無く、桃を指していたこともその文脈から理解できる。
んで、古き良き中国では女性がイイ男に恋心を伝えるプレゼントとして桃の実を投げつけたりぶつかったり、、とか。
桃を実を手にすると、ずっしりと重く、その充実したふくらみに、なにか現世を超越した生命力を感じる。たとえばそれは蓮の花を目の当たりにしたのと同様、なにか心の根源をゆさぶるような、力強い感覚だ。これが、桃力。
日本の昔話の桃太郎や、最近ではディズニーの寓話的アニメ「ジャイアントピーチ」など、桃のシンボリズムは、確実に現代も生きている。
桃の旬は品種や産地など、わずか10日程度で終了・移動する。また専門家の間でも、細かい品種の見分けは難しいという。とにかく美味しそうな桃を見つけたら、一期一会の出会いで購入することが大切。ちなみに、日本独特の「白桃」は、1875年に中国から輸入された上海水蜜桃岡山県での突然変異種や天津水蜜種を元に品種改良されたもの。中国から西のアラブやヨーロッパでは黄色く固い黄桃が主に栽培されている。日本の白桃は、独特の果肉の白さとみずみずしさが特徴で、かつて、台湾や大陸におみやげとして持って行くと喜ばれた。大陸で桃の実を見かけると、なるべく購入することにしているが、見た目はともかく、固くて小さいことがおおいのは、日本の白桃に慣れてしまったせいか。最近は日本から逆輸入した白桃系品種も栽培されていると聞いているが、食べた事がない。
写真は、福島の白桃。新宿東口の果物店で一個300円。今年の桃のシーズンも、ほぼ終了である。コリコリと甘く瑞々しく生々しい。これは、毒だの死の果実だの言いつのってでも、独り占めしたくなる風味。
どんな美人でも、白桃を食べる時の表情に、その本性をむき出すともいう。深い仲でのピロートークならぬピローフードとして果実は最適だが、なかでもパートナーの白桃をむさぼる様子を眺める事は、相手のむき出しの本性を受け入れ理解する一つの官能的な行為。なんておみやげに購入した桃が不味かった事が原因で口論となりフラれちゃったこともあるオイラには説得力が無いなぁ。