縄文のメドゥーサ

縄文のメドゥーサ―土器図像と神話文脈
という訳で本屋からなんとなく遠ざかっていた自分が、田中基氏の「縄文のメドゥーサ」が昨年秋に出版されていたことをネットで知ったのは、つい10日ぐらい前のこと。アマゾンで購入したら、翌日に到着。一週間かけて、ゆっくり読んだ。
田中基氏といえば、民俗学専門誌「ドルメン」第3期の元編集長として知られる伝説の人物。もう10年ちかく前になるだろうか? 工作舎の編集部ネットコラムで、著書を準備しているという記事を読んだが、今回、出版したのは現代書林。あとがきには、担当編集者である現代書林編集部の村井三夫氏に「諏訪の御柱に三回訪れ、遅々として進まない原稿を十数年待って、ようやく出版にこぎつけ」たことに関する感謝を述べている。諏訪の御柱といえば、7年に一度のイベント。この時代に、20年以上も待たせたほうも偉いし、待ったほうも凄い。そして工作舎からは、書籍は出るのだろうか? 将来の楽しみでもある。
内容は、大きく3つのパート「縄文時代の死の女神に関する儀式の読み解き」そこからつながる「中世〜近世の諏訪信仰の儀式の紹介」そして、「柳田国男氏、折口信夫氏という民俗学の先人によるやまびと・山人・異人というテーマに対する葛藤(主に折口論文にたいする柳田サイドの嫉妬やねたみ)を、次世代であった岡正雄氏の視点から記述した論文」という構成になっており、メインはもちろん、縄文と諏訪の古代の地層から続く精神世界パート。
時間をかけて、ゆっくりと発酵した思考は、縄文や中世の両義的な性と生と死とを、くるくると回遊するミシャクジの精霊たちをめぐる儀式の発生と反復と終焉を、まるで目の前で起きたことを幻視したかのようにリアルに記述する。迫力に満ちた、何度も噛みしめて読むべき傑作。近年、多摩美術大学の芸術人類学研究所の特別研究員にも赴任されたということで、多摩美の学生がうらやましい。いちど機会があったら、生でお話を聞いてみたい、お会いしたい、サイン欲しい(ミーハー)。