コマーシャル・ソングは永遠に

 トマス・ピンチョンの小説「競売ナンバー49の叫び」に「ペプシコーラのコマーシャルソング」についての記述がある。
 周囲の状況に関係なく、主人公の頭の中には他人には聞こえない「ペプシコーラは量が多くて安い!!」という意味の歌が流れ続けており、その雑念を払うことが出来ないという描写。手元に本も無いし、読んだのは15年近く昔のことだが、なんとなく、ずっと気になっている。

 自分の心の潜在意識には、楽しい幼年期の思い出の映像、つまり「イシイのハンバーグ」や「丸大ハンバーグ」、「文明堂のカステラ」などのコマーシャルと音楽が山のように焼き付けられている。
 たぶん死ぬ前に見るという走馬燈の映像の多くも、実際に体験した人生ではなくて「イシイのハンバーグ」の食用動物たちのオーケストラや、ミノルタカメラの「いまの君はピカピカに光って〜」という赤いビギニ姿の宮崎美子のストリップだったりするのだろう。肉体から霊魂が離れる瞬間の映像はお約束で「フランダースの犬」ラストシーンのループ(涙)、生と死の境目を超えた瞬間に聞こえるのは「アメリカ横断ウルトラクイズ」で勝ち抜きのシーンで流れるホーンセッションかもしれない。

 それはそれでせつないが、まあ仕方ないやと受け入れてもいる。
 そういえば先日観た「マインド・ゲーム」という映画と映像も、同じようなテーマを扱っていたような気がする。