Wols


十代後半から二十代前半にかけて、ヴォルス(Wols:1913〜51)のモノクロ写真が大好きだった。なんだかよくわからないけどひかれるものがあった。たとえば押井守がアニメ作品である「イノセンス」に大きな影響を与えたと公言してはばからないハンス・ベルメールの写真(人形にせよヌードにせよ)はエッチだ。エッチでスケベでヘンタイだから明快に脳にガーンと来る。自分は埼玉の某地方都市の図書館の美術史コーナーにおいてあったベルメールの写真&作品集を、中高生の頃に一種のポルノとして偏愛していた。しかしヴォルスは違う。なんだろう。意味のわからない不安のような、一見、普通に見えていても、重力の方向が異なるような、異常な感覚。分裂しながら執着しているような細部が渦を巻くラインの水彩画や油絵も好き。タフなクリムトに対するココシュカの狂気のような関係性を、クレーとヴォルスの絵の間に感じる。同じような抽象と色の世界を表現しながら、ヴォルスの方がより深く絶望し病んでいる。写真や絵に生命の全てを賭ながら、生活のために作品を売ろうとしなかった男。彼は38歳の時に貧困のために腐敗した馬肉を食べて食中毒を起こして死んだ。ご興味のある方は「Wols」で検索をかけてしばらくウロウロすれば、代表作はほとんど観ることが出来ると思う。早死にしすぎた作家の作品は、決して多くはない。